Wise Leaders in Action

長い時間軸で考え、未来を形づくる

2026/10/23

 堀坂研太郎(東京ガス株式会社 執行役員 統合企画部長)、MBA Class of 2003

Ken HORISAKA MBA Class of 2003_3

「未来の世の中がどう変わるのか。そして、それに対して自分たちはどう貢献したいのか。」

東京ガスで約30年にわたりキャリアを歩んできた堀坂研太郎さんは、エネルギービジネスについてそう語る。LNGの調達では、一度結んだ契約が20年にわたって続くこともある。将来を正確に見通すことはできない。それでも、長期的な影響を考え、最後は決めなければならない。

一橋ICSへの企業派遣を経て、堀坂さんは、LNGの調達、海外での省エネルギー事業、エネファーム、シェールガス、再生可能エネルギー、そして経営企画と、さまざまな立場からエネルギーと社会の未来に向き合ってきた。

その歩みの中で、ICSで学んだ知識創造理論や「実践知」の考え方は、仕事やリーダーシップを考えるうえで、今も重要な意味を持っている。

本対談では、長い時間軸で社会インフラを支える仕事、相反するものの間で決めること、AI時代における人間の判断、そして堀坂さんが考えるリーダーシップについて伺った。

■ 立ち止まり、自分の仕事を俯瞰する 

鈴木

ICSを卒業された後、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。

堀坂

私は企業派遣でICSに行ったので、卒業後は東京ガスに戻りました。

最初に担当したのは、都市ガスの原料となるLNG、液化天然ガスを輸入する仕事です。オーストラリアやロシアのLNGプロジェクトと交渉し、契約を結び、天然ガスを調達していました。

その後は、東京ガスが国内で展開していた省エネルギーのソリューションを、マレーシアやブラジルに展開する仕事にも携わりました。

国内では、家庭用燃料電池「エネファーム」の商品企画も経験しました。最近では、経営企画や米国でのシェールガス開発、大規模太陽光発電所の開発などにも関わってきました。振り返ると、東京ガスと海外市場を結びつける仕事が多かったと思います。

鈴木

ICSに行ったことは、その後のキャリアにも影響がありましたか。

堀坂

あったと思います。

ICSに行く前は営業部門にいました。一度職場を離れてICSで学んだことが一つの区切りになり、帰任後はエネルギー調達という次の仕事に進みました。

会社で仕事をしていると、どうしても目の前のミッションに集中します。それ自体は大切ですが、一度そこから離れて学び、普段接している社内の人や取引先とは違う人たちと出会うことで、視野が広がります。

そして、自分がそれまでやってきた仕事を、もう一度少し離れたところから見ることができる。

私にとってICSの一年間は、自分の仕事やキャリアを俯瞰し直す時間でもありました。そういう時間を持つことには、大きな意味があったと思います。

 

■ 相反するものを受け入れ、その先を考える 

鈴木

堀坂さんにとって、ICSの学びの特徴はどこにありましたか。

堀坂

一つは、物事を理論的に捉えて考えることです。ただ、ICSの良さは、理論だけで終わらないところにあると思っています。

理論に照らしながらも、自分の中にある経験や、暗黙的に学んできたものを掛け合わせて、仕事やビジネスを考えていく。そういうアプローチが印象に残っています。

鈴木

特に印象に残っている授業はありますか。

堀坂

野中郁次郎先生の知識創造理論ですね。自分の中では、ICSに行ってよかったと思える授業の一つでした。

理論は、ある状況を切り取ってロジカルに説明するものが多いと思います。一方で、知識創造理論は、物事が動いていくダイナミックなプロセスを扱っています。

特に印象に残ったのは、相反するものをどちらか一方に整理するのではなく、あえて両方を受け入れ、その先に新しいものを生み出していくという考え方です。そうした発想が、とても新鮮でした。

Ken HORISAKA MBA Class of 2003_1

■ 長い時間軸で考え、最後は決める 

鈴木

実際の仕事でも、相反するものの間で判断を求められる場面は多いのでしょうか。

堀坂

そうですね。

例えば、エネルギーの調達交渉では、最後にどこで妥結するのかを決めなければなりません。そこには、絶対的な正解があるわけではありません。

しかも、LNGの契約であれば、20年間続くこともあります。その時点の条件だけではなく、その判断が長い時間にわたってどのような影響をもたらすのかまで考えて、決める必要があります。

そういう意味でも、エネルギーの判断は、一つの条件だけを見て決められるものではありません。できるだけ経済的に調達することは大切です。一方で、地政学的な環境を考えると、必要なエネルギーをきちんと確保できるかという供給のセキュリティも考えなければなりません。

目の前の条件だけではなく、さまざまな要素を見ながら、長い時間軸で考える必要があると思います。

鈴木

20年先まで影響するとなると、最後に決めることの重みも大きいですね。

堀坂

そうですね。
ただ、最後に決める際にも、仲間の意見をどう聞くか、それを自分の考えとどう統合するかは大切です。さまざまな意見を踏まえたうえで、「これが最善だ」と思えるところまで考える。そうして最後は決める。それが大切だと思っています。 

 

■ 未来の変化と、自分たちの役割を重ねる 

鈴木

20年という時間軸で考えると、かなり先の社会まで想像しながら仕事をする必要がありますね。

堀坂

そうですね。ビジネスのサイクル自体は以前より短くなっていますが、それでも東京ガスの仕事には、単年度では完結しないものが多くあります。

未来の世の中がどう変わるのか。そして、その変化に対して、自分たちはどう貢献したいのか。その二つを掛け合わせながら考えていく必要があると思います。

鈴木

そうした変化の中でも、大切にしているものはありますか。

堀坂

エネルギーを安定してお届けすることへの思いや責任感は、東京ガスの中で強く共有されていると思います。私は30年ほど会社にいますが、そこは共通している部分だと感じます。

一方で、その役割を果たす方法は変わっていきます。これまでは天然ガスの需要が伸びていく時代でしたが、今は脱炭素やカーボンニュートラルに向けて大きく変化しています。東京ガスも、電力やデジタルソリューションなど、新しい領域に取り組んでいます。

これからは、エネルギーを届けることだけではなく、お客様や社会が抱えている課題をどう解決するかを考えていく。その中で、エネルギーや自分たちが持っているインフラも、一つの手段なのだと思います。

鈴木

そうした変化や新しい挑戦があることも、会社への思いにつながっているのでしょうか。

堀坂

そういう部分はあると思います。

会社の中に新しいチャレンジがある。そういうチャレンジの存在が、社員の会社へのロイヤリティにつながっている部分もあるのかなと思います。  

 

■ 実践知を重ね、人間として判断する 

鈴木

AIやデジタルが進み、分析や予測の多くをテクノロジーが担うようになる中で、人間にはどのような役割が残ると思われますか。

堀坂

私たちも、デジタルやAIには真剣に向き合っていかなければならないと思っています。

一方で、そういう時代だからこそ、野中先生が語られていた「実践知」や「賢慮」という考え方が、改めて意味を持ってくるのではないかと思います。

例えば、実践を通じて何かを感じ取ることです。AIが出してくる予測と、自分の感覚や感性を重ね合わせながら考えていく。そして、ルーティン化できるものは別として、最後は人間として考え、決める。そこに、人間が担う部分が残っていくのではないでしょうか。本当は、機械が答えを出してくれた方が楽なのかもしれません。でも、そうした問いに向き合い、自分で決める。そのプロセスには、人間らしさが残ると思っています。

鈴木

これからのビジネスパーソンには、どのような力を身につけていくことが重要だと思われますか。

堀坂

もちろん、理論や仕組みを理解することは大切です。ただ、それだけではなく、実際のビジネスの中で難しい状況に向き合い、それを乗り越える中で、実践知を積み重ねていくことも重要だと思います。

仕事をしていると、本当にお腹が痛くなるような場面があります。そこで考え、判断し、何とか乗り越える。そうした経験の積み重ねの中で身につくものがあると思います。

そして、そうして積み重ねた実践知を、ほかの知識や経験と掛け合わせていくことも重要です。目の前の仕事だけでなく、より大きな事業や社会への価値につなげていくためには、そうした発想が必要なのだと思います。 

 

■ ビジョンを示し、決め、行動する 

鈴木

堀坂さんにとって、リーダーとはどのような存在ですか。

堀坂

自分が言うのもおこがましいのですが、大きく三つあると思っています。

一つ目は、ビジョンを示すこと。どこへ向かうのか、どのような未来を目指すのかを示すことです。

二つ目は、決めることです。短期と長期、日本的な考え方と西洋的な考え方など、相反するものがある中でも、最後は決めなければならない。

そして三つ目は、行動することです。私は、行動するところが実践知の部分なのだと思っています。

ビジョンを示し、決め、自ら行動する。その三つが、リーダーシップにとって大切なのではないでしょうか。

 

■ 集中して学ぶ時間を、楽しむ 

鈴木

フルタイムでMBAを学ぶことには、どのような価値があると思われますか。

堀坂
やはり、一度仕事を離れて、それまでの経験を俯瞰し直せることだと思います。

特に、ある程度社会人経験を積んでからだと、自分の実務経験を持った状態で学び直すことができます。そこに大きな価値があると思います。

オンラインで少しずつ学ぶことにももちろん価値はあります。ただ、オンラインではどうしても形式知中心になりやすい。フルタイムには、フルタイムだからこそ得られるものがあると思います。

鈴木

ICSでは、かなりタフな一年を過ごされたのですよね。

堀坂

そうですね。ワークロードはかなりタフでした。

毎日のケースや課題に取り組む中で、すべてを同じように完璧にやることはできません。何を優先し、どこに自分の時間を使うのかを考えながら行動する。その経験は、実際のビジネスでもかなり役に立っていると思います。

時には、「このケースは少し軽めでいい」と自分で判断することも必要です。限られた時間の中で、自分で優先順位をつける。それも一つの学びだったと思います。

また、チームで取り組む中では、「自分は何を担うのか」を考える機会もありました。みんなが同じ役割を果たすわけではありません。どうすればチームとしてよりよいアウトプットを出せるのかを、自然と考える環境だったと思います。

鈴木

最後に、これからICSを目指す方や、現在学んでいる学生にメッセージをお願いします。

堀坂

これから入学を考えている方には、ぜひ前向きに検討してほしいと思います。

そして、入学したら大変なこともあると思いますが、とにかく楽しんでほしいですね。

ある時期、一つのことに集中して取り組むことには、それ自体に価値があると思います。限られた時間の中で、考え、選び、人と一緒に取り組む。そうした経験は、その後の仕事にもきっと生きてくると思います。

鈴木

今日はお忙しいところ、ありがとうございました。長い時間軸でエネルギーと社会の未来に向き合ってこられたお話が、とても印象的でした。
また、AI時代だからこそ、ICSが長く大切にしてきた実践知や賢慮が改めて意味を持つというお話にも、大変共感しました。これからも、社会インフラを支えながら、新しいエネルギーの未来をつくっていかれることを楽しみにしています。

Ken HORISAKA MBA Class of 2003_2

LNGの調達、海外事業、エネファーム、シェールガス、再生可能エネルギー、そして経営企画。堀坂さんのキャリアを通して見えてくるのは、目の前の仕事だけではなく、その先にある社会を見据える視点である。

エネルギーという社会インフラを担う仕事では、未来を正確に見通すことはできなくても、長期的な影響を考え、複数の要請に向き合い、最後は決めなければならない。異なる意見を聞き、自分の考えと統合し、「これが最善だ」と思えるところまで考える。

ICSで出会った、相反するものを受け入れ、その先に新しいものを生み出すという考え方。そして、実践知を重ね、ビジョンを示し、決め、行動するというリーダーシップ。堀坂さんの歩みには、そうした学びが、長い時間軸で社会インフラの未来に向き合う実践として息づいている。

ICSが育てようとしているのは、未来を正確に予測できない現実の中で、相反するものを受け止め、長い時間軸で考え、最後は自ら決めて行動できるリーダーである。