Wise Leaders in Action
2026/10/08
山田武生(株式会社ヨコハマシステムズ 代表取締役)、Class of 2000

「僕は、事業を大きくすることより、立ち上げるところが好きなんだと思います。」
山田武生さんのキャリアを振り返ると、その言葉が一本の軸として浮かび上がる。
一橋ICSを卒業後、米国発のデジタルコンサルティング会社Scient(サイエント)の日本法人に入り、立ち上げ期の事業に携わった。その後は、自らコンサルティング会社を立ち上げ、大企業やベンチャーの新規事業開発に関わってきた。
しかし、山田さんが惹かれてきたのは、会社を大きくすることそのものではない。まだない事業や仕組みを立ち上げ、新しい可能性を形にすることだった。さまざまな事業に関わる中で、自分は「規模」より「立ち上げるところ」が好きなのだと気づいたという。
その姿勢は、東日本大震災をきっかけに立ち上げたCueformでの取り組みにも、現在のヨコハマシステムズでの経営にもつながっている。高齢者などにテレビを通じて情報を届ける仕組みを形にし、今は、新しい技術を取り込みながら、顧客の仕事やプロセスそのものを変えていく会社を目指している。
山田さんに、事業を立ち上げることへの思い、ICSで得たもの、そして現在の経営について伺った。
鈴木
まず、ICSに来られたきっかけから教えてください。
山田
一番大きかったのは、ベンチャーをやりたかったことですね。
大学時代に竹内弘高先生のゼミにいて、その後、三菱商事に入りました。商事では、ロシアやウクライナなど資源輸出国向けの家電販売の立ち上げや、サービス拠点づくりに携わっていました。かなり泥臭い仕事でした。
その後、所属していたロシア・インドのチームがベンチャーキャピタルの仕事も手がけるようになりました。そこで世界中のベンチャー関係者と接する機会が増えて、「若いうちに起業しないと面白くないんじゃないか」と思うようになったんです。
鈴木
その中で、なぜICSを選ばれたのでしょうか。
山田
僕が一期生だったので、当時はまだ三菱商事から2年間の国内MBAプログラムに行く制度がありませんでした。翌年からは認められたんですけど、僕の時は辞めないと行けなかった。
会社の役員からも、「君がやりたいことは全部ここでできると思うけど、なんで行くんだ」と言われました。
でも、そっちの方が面白そうだと思ったんですよね。
竹内先生にも、ベンチャーをやりたいならICSでできると言っていただいたので、ベンチャーの勉強をしたいというのが大きかったです。
鈴木
実際に入ってみて、どんな経験が印象に残っていますか。
山田
清水紀彦先生のゼミでは、ベンチャーファイナンスやベンチャーマネジメントを学びました。
インターンシップも面白かったですね。サンフランシスコの小さなM&Aアドバイザリー会社に行って、いくつか案件にも関わらせてもらいました。普通だったらできない経験だったと思います。
清水先生の言葉で、今でも覚えているのが、「人の行く裏に道あり花の山」です。
みんなが行くところではなく、人が行かないところに行く。清水ゼミの一期生には、そういう感覚がどこか残っているのかもしれません。
鈴木
卒業後は、どのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。
山田
最初はScientという米国のコンサルティング会社の日本法人の立ち上げに関わりました。
デジタルとウェブと戦略を一緒に考える、というのが当時のコンセプトでした。そこで2年程仕事して、その後、ベンチャー企業に移りました。
そこで僕は資金調達にも関わって、ベンチャーキャピタルから投資していただいたり、銀行との融資交渉をしたりしました。
でも、どれだけ経営陣と話しても、その先、どうやって事業を続けていくのかというシナリオが見えてこなかったんです。
鈴木
その経験は、ご自身にとってどのようなものでしたか。
山田
かなり苦しかったですね。
自分も資金調達に関わっていたので、「ここで辞めていいのか」という責任も感じていました。会計士の方に「僕、人生どうすればいいんですかね」と相談するくらいでした。
でも最終的には、自分は社員であって経営者ではないのだから、辞めるという選択肢もある、と考えて退職しました。

鈴木
そこから、ご自身で会社を立ち上げられたのですね。
山田
そうです。6人くらいでコンサルティング会社を立ち上げました。
大企業向けとベンチャー向けの事業開発をやろう、と決めました。
リクルートや不動産会社などから仕事をいただいて、今でいうSUUMOの立ち上げの部分にも関わりました。
僕たちは小さかったので、大手のコンサルティング会社がやるような業務改善や改革は絶対にやらないと決めていました。
事業開発で、新しいことをやることだけにしたんです。
ベンチャーキャピタルの投資先の事業開発をやったり、いくつもの会社の取締役を兼任しながら、ITベンチャーの立ち上げや上場に関わったりしました。
鈴木
そうした仕事を続ける中で、ご自身について見えてきたことはありましたか。
山田
ありましたね。
5年くらいやったところで、一度リセットしたんです。妻と一年間、世界旅行をして、その間に、自分がやりたいことは何だろうと考えました。
昔のICSの資料を見たら、入る時にも「ベンチャーをやりたい」と書いてあって、出る時も「ベンチャーをやりたい」と書いてあったんですよね。
大企業の事業開発も、ベンチャーもたくさん見てきた中で、僕はやっぱり、規模というよりも立ち上げるところが好きなんだなと実感しました。
大きくするのも大事だと思いますし、そういうのに向いている人もいる。
僕はどちらかというと、立ち上げる方がいいのかなと思いました。
鈴木
その後、どんな事業を立ち上げられたのでしょうか。
山田
東日本大震災が起きた時、年配の方たちは携帯電話をまだ十分に使えなくて、情報を得にくかった。
その時、テレビなら家の中で使っている人が多いので、テレビと情報配信を結びつければ何かできるんじゃないかと考えたんです。
高齢者の方が家の中でもいろいろな情報を得られるサービスをつくろうと考えました。
それで立ち上げたのがCueformです。
鈴木
事業としては、どのように考えていたのですか。
山田
最初から、そんなに大きな事業とは思っていなかったんですよ。
ターゲットもかなりニッチです。でも、今もサービスは続いていますし、少しずつ広がって、数万人の方に使っていただいています。
もともとは大企業の中で立ち上げることも考えていました。
でも、こういうものは5年、10年と続かなければ意味がありません。大企業だと、経営者が変わった時に方向が変わることもある。
だったら外で立ち上げて、長く続けられる形にした方がいいだろう、と考えました。
鈴木
現在のヨコハマシステムズでは、何を目指されているのでしょうか。
山田
うちの会社は、もともとシステムインテグレーターだったはずなんですよ。
でも、今はソフトウェアの開発会社みたいになっていて、あまりインテグレーションしていない。
だから、もう一度インテグレートしたいと思っています。
鈴木
山田さんがお考えになる「インテグレーション」とは、どのようなものですか。
山田
新しい技術を捉えて、それによってお客様の仕事やプロセスそのものを変えていくことです。
言われたシステムをつくるだけではなくて、「この仕事は、こう変えられるんじゃないか」と考える。
そのためには、エンジニアも単に開発するだけではなく、お客様の本当のニーズを捉えて、事業開発までできるようにならないといけないと思っています。
AIもかなり使っています。社内では「AIは使いたい放題」と言っていますし、LLMも自分たちで組んでいます。
これからは、AIを使えること自体よりも、それを使って何を変えるのかが大事になると思っています。
鈴木
一方で、仕事を進めるうえでは、現場もかなり重視されていますね。
山田
そうですね。
たとえば、災害時に必要なトイレトラックを自治体間で手配する仕組みづくりに関わりました。
それまではかなり手作業で、自治体の中にも多くのプロセスや承認がありました。それを「1時間でできるようにしよう」とシステム化したんです。
でも、実際に災害が起きて使われてみると、そこからまた問題が出てくる。
現地に着いた後、給水や汚水処理をどうするのか。誰がどう運用するのか。
そういうことは、実際に現場で使ってみなければわからないんですよね。
それで現地に行って、運用フローを大急ぎでつくりました。
災害のようなものは、本当に起こってみないとわからないことがたくさんある。だから、「現場、現場、現場」でやるしかないと思っています。
鈴木
ICSで学んだ知識創造は、今の仕事とどのようにつながっていますか。
山田
知識創造は、今になるとすごく目の前の話だと思いますね。
暗黙知って、経験がなければ生まれないじゃないですか。
現場に行く。人と何かやってみる。問題が起こる。
そういう経験があって初めて、知が蓄積されていくんだと思います。
鈴木
今、社内ではどんなことを大切にされていますか。
山田
「社会にとってどうすべきか」ということを、みんなで話すことですね。
「喧嘩しても何でもいいから喋ろうよ」という文化をつくっているのが、一番大きいと思います。
一年目の社員でも関係なく、僕はどんどん問いかけます。それに対して、自分なりに考えて答えてくれると、若い人たちも元気になってくる。そういう形で広がっていけばいいなと思っています。
鈴木
なぜ、「社会にとってどうすべきか」という問いを大切にされているのでしょうか。
山田
たとえば、僕はロシアとウクライナの両方にお客さんがたくさんいたんですよね。
仕事を通じて、どちらの国も身近に感じていました。それだけに、その二つの国が戦争をすることになるとは想像していませんでした。
「どうしてこんなことが起きるんだろう」と思うし、どうすれば変えていけるのかということを、誰かが考えないといけないと思うんです。
それが自分の役割じゃなかったとしても、世の中で起きていることについて、考えることは必要だと思っています。
鈴木
若い頃にロシアで仕事をされた経験も、今の考え方に影響していますか。
山田
かなりあると思います。
当時は、本当に厳しい世界も見ました。
そういう中で仕事をしていると、理想も大事なんだけど、現実を生きるというのはもっとえげつないんじゃないか、という感覚を持つんですよね。
世の中は、きれいなことだけでできているわけではない。
泥臭い人たちの中で仕事をして、お金も稼がなきゃいけないし、自分の人生も考えなきゃいけない。
若い人たちにも、そういう感覚は持ってほしいと思っています。
鈴木
山田さんは、リーダーシップについてはどのように考えていますか。
山田
それを聞かれるのは苦手なんですよね(笑)。
「リーダーシップとは何ですか」と言われても、正直、わからない。ずっと考え続けるものなのかもしれません。
ただ、社員には「マネージャーとリーダーは違うよ」ということは伝えています。
マネージャーは、プロセスやロジックを理解して、会社をきちんと動かしていく。
でも、リーダーは、それとは違うと思っています。何か思いがあったり、「こうすべきだ」というものがあったりする。
僕は、いろんな人たちが、いろんな状況に応じてリーダーシップができるようなチームをつくりたいと思っています。
職位ではなくて、その環境によってリーダーになる人が変わる。
それぞれの人がリーダーシップを持てるようになるといいと思っています。
鈴木
ICSで学んだことで、今でも特に心に残っていることはありますか。
山田
野中郁次郎先生は大好きなんですよ。
一番残っているのは、僕たちが一生懸命プロジェクトをやって、つくった結果を、野中先生が見ないんですよね。そこで、「ここまでお前ら死ぬ気で頑張ったんだろう。それがこの授業だ」と言われたんです。
だから、やっているプロセスが大事なんだ、と。
その正反対が清水先生で、清水先生は「結果がすべてだろう」という方だった。
その対比が、僕の中ではICSで一番面白かったですね。
鈴木
最後に、現役生や、これからICSに来る方にメッセージをお願いします。
山田
僕はICSがとにかく楽しかったんです。
何が楽しかったかというと、みんなで必死になることが楽しいんですよね。
僕はICSに入った時も、卒業する時も、「ベンチャーをやりたい」という思いでした。
でも、あの頃に思っていたベンチャーと、今のベンチャーの捉え方は全く違うと思います。それでいいんですよね。
結局、最後は「どうやって楽しく生きるか」ということなのかなと思っています。
何でもいいから、何かに熱中してみる。
それが結局は自分に返ってくる気がします。
鈴木
今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
「ベンチャーをやりたい」という思いでICSに入り、さまざまな事業の立ち上げや経営を経験しながら、その意味をご自身なりに深めてこられたことが、とても印象的でした。
これからも、ヨコハマシステムズの皆さんとともに、現場から課題を見つけ、新しい価値を形にしていかれることを楽しみにしています。

山田さんの歩みを貫いているのは、まだないものを立ち上げることへの好奇心である。
しかし、その「立ち上げる」という言葉の意味は、経験とともに深まってきた。
新しいものを始めるだけでは、事業は続かない。技術だけでも、理想だけでも十分ではない。現場に入り、人と向き合い、そこで生まれる知をつかむ。そして、「社会にとってどうすべきか」を問いながら、それを事業や仕組みとして形にしていく。
山田さんが目指しているのは、社長一人が答えを示す組織でもない。一人ひとりが自分で考え、必要な場面でリーダーシップを発揮できる組織である。
理想を持ちながら、現実から目をそらさない。社会にとって何がよいのかを問いながら、それを現実の中で形にする。
そこに、山田さんが実践するWise Leadershipの姿がある。
ICSが育てようとしているのは、現場の現実に向き合い、「社会にとってどうすべきか」を問い、人と知を動かしながら、まだない価値を形にしていくリーダーである。